今回、スポーツマネジメントに関する学会への参加と、アデレード大学で開催された「めまい(Dizziness)」の鑑別診断や治療に関する専門研修を受講するため、アデレードを訪れました。
約10年ぶりに大学のキャンパスへ
2017年にオーストラリアで理学療法士として働き始めてから、約9年が経ちました。
これまでも学会や研修には参加してきましたが、大学のキャンパスで実際に講義や実技を受けるのは本当に久しぶりです。
アデレード大学は、歴史を感じさせる建物が立ち並び、とても雰囲気のあるキャンパスでした。
そんな環境の中で、久しぶりに学生時代に戻ったような気持ちで勉強することができ、とても新鮮な経験になりました。
オーストラリアを代表する教授から直接学ぶ貴重な機会
今回のコースでは、Prof. Trudy Rebbeck(トゥルーディー・レベック教授) から直接指導を受けることができました。
Rebbeck教授は、オーストラリアでも頸部疾患、むち打ち症、めまいなどの研究・臨床分野で知られる理学療法士・研究者です。
これまでに100本以上の学術論文を発表し、国から多額の研究助成金を獲得するなど、研究分野でも豊富な実績を持つ先生です。
そのような先生から、研究に基づいた最新の知識を学び、実技を通じて直接指導していただけることは、本当に貴重な経験でした。
20代から50代まで。学び続けるオーストラリアの理学療法士たち
今回、専門的な知識を学ぶことと同じくらい印象に残ったことがありました。
それは、オーストラリアの理学療法士は、何歳になっても学び続けているということです。
今回のコースには14名の理学療法士が参加していました。
20代、30代の若い理学療法士から、僕と同じ40代、さらに50代のベテランの方まで、幅広い年代の方が参加していました。
臨床経験も働いている環境もそれぞれ違いますが、共通しているのは「新しい知識を身につけたい」「もっと患者さんに良い治療を提供したい」という姿勢です。
経験を積んだから勉強を終えるのではなく、経験を積んだからこそ、さらに学びを深めていく。
そんな皆さんの姿勢には、とても刺激を受けました。
そして、もう一つ印象的だったのが、授業の進め方と参加者の積極性です。
今回のコースは14名という少人数で、2人ずつペアになって実技を行ったり、4人のグループで症例についてディスカッションしたりと、実践的な内容が中心でした。
僕の実技パートナーは、タスマニアから参加していた30代の理学療法士でした。
若いながらも、普段からクリニックでめまいの患者さんを中心に診ている経験豊富なセラピストで、実際の臨床経験を交えながら意見交換することができました。
そして何より驚いたのが、授業中の皆さんの積極性です。
教授から質問が投げかけられると、参加者は次々と自分の考えを発言していきます。
わからないことがあれば、その場ですぐに質問する。
実技中にも「このやり方で合っていますか?」「こういう患者さんの場合はどうしますか?」と、遠慮なく教授に確認していました。
講義をただ聞くだけではなく、自分の知識や経験を共有しながら、みんなで学びを深めていくスタイルです。
もちろん、日本でもこのような講習はありますが、今回のコースでは特に、参加者一人ひとりが積極的に意見を発信する姿が印象に残りました。
一方で、僕自身はというと……。
英語でのディスカッションになると、まだまだ自分から積極的に入っていけない場面が多く、とても悔しい思いをしました。
言いたいことや質問したいことがあっても、英語ですぐに表現できない。
普段オーストラリアで患者さんを診ていても、専門家同士のディスカッションとなると、また違った難しさがあります。
頭の中では言いたいことがまとまっているのに、それをうまく英語にできないもどかしさ……。
今回改めて、理学療法の知識だけでなく、英語もまだまだ勉強が必要だと痛感しました(笑)。
それでも、年齢に関係なく学び続ける仲間たちと同じ時間を過ごし、さまざまな考え方や臨床経験に触れられたことは、本当に貴重な経験でした。
自分もまだまだ学ぶことがたくさんある。
そう感じられたことも、今回の研修で得た大きな収穫の一つです。

(貧乏学生時代はカフェでコーヒーに憧れていた)
今回学んだ「めまい」の鑑別診断と治療
さて、今回の専門コースのテーマは「めまい」です。
実は、一言でめまいといっても、その原因はさまざまです。
めまいが起こると、耳の問題をイメージする方も多いかもしれませんが、首の機能や脳・神経系の問題など、さまざまな原因が考えられます。
代表的なものとして、以下のような疾患があります。
1. 良性発作性頭位めまい症(BPPV)
寝返りを打ったり、上を向いたり、頭の位置を変えたりした際に、短時間の回転性めまいが起こる疾患です。
内耳にある耳石の位置が関係しており、理学療法では適切な評価を行ったうえで、耳石を移動させる治療が有効な場合があります。
2. 前庭機能障害(Vestibular Dysfunction)
内耳のバランスを感知する機能が低下することで、めまいやふらつきが起こることがあります。
状態に応じて、視線を安定させる運動やバランストレーニングなどの前庭リハビリテーションが役立ちます。
3. 頸性めまい(Cervicogenic Dizziness)
首の筋肉や関節から脳に送られる感覚情報が、めまいやふらつきに関係していると考えられる状態です。
首の痛みや動きとの関連を確認し、ほかの原因を除外しながら判断していきます。
4. 中枢性めまい(Central Dizziness)
脳幹や小脳など、中枢神経系の問題によって起こるめまいです。
脳梗塞など重大な疾患が隠れている可能性もあり、緊急の医学的評価が必要になることがあります。
症状に困った方は是非相談してみてください。
特に重要なのは、レッドフラッグを見逃さないこと
今回の研修で特に重要だったのが、理学療法で対応できるめまいと、医師による評価が必要なめまいを正しく見極めることです。
私たち理学療法士は、症状を改善させることだけでなく、重大な疾患の可能性を考え、安全に患者さんを評価する責任があります。
例えば、次のような症状には特に注意が必要です。
- 突然の激しいめまいや、立つ・歩くことができないほどのふらつき
- 物が二重に見える(複視)
- ろれつが回らない(構音障害)
- 食べ物や水が飲み込みにくい(嚥下障害)
- 顔や手足の突然のしびれ、脱力
- 突然の強い頭痛や、普段とは異なる激しい首の痛み
これらは「レッドフラッグ」と呼ばれる、重大な疾患を疑うサインです。
例えば椎骨脳底動脈循環不全(VBI)や脳梗塞、椎骨動脈解離などが関係している場合もあります。
突然このような症状が現れた場合には、理学療法ではなく、まず救急での評価が優先されます。
理学療法ではどのような評価や治療をするのか?
今回の研修では、めまいの原因を鑑別するためのさまざまな検査やリハビリテーションを実際に行いました。
例えば、
Joint Position Error Test(頸部位置覚検査)
目を閉じて頭を動かした後、元の位置にどれくらい正確に戻せるかを確認する検査です。首の位置を感じ取る能力を評価します。
Oculomotor Assessment(眼球運動検査)
目の動きや眼振、視線を安定させる能力などを評価します。
Balance Assessment(バランス評価)
目を開けた状態や閉じた状態、足の位置を変えた状態などでバランス能力を確認します。
Cervical Spine Assessment(頸椎の評価)
首の関節の動き、筋力、筋肉のコントロールなどを調べ、めまいとの関連を確認します。
こうした検査から得られた情報を組み合わせて、めまいの原因を考え、それぞれの患者さんに適した治療やリハビリテーションを選択していきます。
もちろん、すべてのめまいが理学療法で改善するわけではありません。
まずは原因を見極めること。それが安全で適切な治療につながります。
何歳になっても学び続けること
今回のアデレードでの研修は、めまいについての専門的な知識を深められただけでなく、理学療法士としての自分自身を見つめ直す良い機会にもなりました。
20代から50代まで、年齢や経験に関係なく積極的に学び続ける参加者たち。
専門的な知識と豊富な研究経験を持ちながら、私たちの質問に丁寧に答えてくださる教授。
そして、自分自身がまだまだ学ばなければいけないこともたくさんあると感じた1日でした。
英語でのディスカッションは悔しい場面もありましたが、それも含めて、久しぶりに学生に戻ったような楽しい時間でした。
理学療法士として何年経験を積んでも、学びに終わりはありません。
今回学んだ知識や技術を、ブリスベンでの普段の臨床にしっかり還元し、これからも患者さんにより良い治療を提供できるよう、勉強を続けていきたいと思います。
9年越しの大学のカフェでのコーヒー
今回、大学のキャンパスに戻って、もう一つ個人的にやってみたいことがありました。
それは、大学のカフェでコーヒーを買うこと。
実は、2015年から2017年にかけてオーストラリアの大学院に通っていた頃、僕は本当にお金に余裕がありませんでした。
食べるものにも困って教会のチャリチー活動のパンをもらっていたことは以前に書きましたし、
バス代が払えなくて中古で買った自転車で片道18キロ通っていたり(まあそのおかげで体力がついてセミプロサッカーチームと契約できたという話も以前のブログにあげましたが)
周りの大学院の友人たちは、みんな頭が良くて要領も良く、経済的にも比較的余裕のある学生が多かったように思います。
授業の合間に先生や友人たちが当たり前のようにカフェでコーヒーを買って飲んでいる姿を、よく見ていました。
一方、僕はというと、当時の約3年間、ほとんどインスタントコーヒーしか飲んでいませんでした(笑)。
カフェでコーヒーを買うという、カフェ文化のオーストラリアではよく見かける光景が、当時の僕にとってはめちゃくちゃ贅沢だったんです。
そして今回、約9年ぶりに大学のキャンパスに戻ったので、せっかくだからと大学のカフェでコーヒーを買ってみました。
コーヒーを飲みながら、毎日必死に勉強していた大学院時代のことや、当時の生活をいろいろと思い出しました。
あの頃は勉強にも生活にも余裕がなく、毎日を乗り切ることで精いっぱいだったように思います。
でも、そんな時期があったからこそ、今こうしてオーストラリアで理学療法士として働き、また大学に戻って勉強できることをありがたく感じます。
約9年越しに大学のカフェで飲んだコーヒーは、いつもより少しおいしく感じました。
そして、そんな思い出に浸りながらも、これからまだまだ勉強しなければいけないな、と改めて思いました。

(学生時代の夢だったコーヒーとパソコン)
研修資料:Differential Diagnosis and Management of Complex Cervical Spine Presentations(2026年9月)
講師:Prof. Trudy Rebbeck / A/Prof. Kerrie Evans
※突然の激しいめまいや神経症状がある場合には、速やかに救急医療機関での評価を受けてください。

