Carindaleでフィジオ(理学療法士)をしております、葛山元基(くずやまもとき)と申します。
今回は出産後の運動復帰についてご質問をいただいたので、書かせていただきたいと思います。
私はオーストラリアの首都、キャンベラの産婦人科・整形のインターンをさせてもらっていて、
産前産後のエクササイズクラスや腰痛の対応、乳腺炎の対応をさせてもらっていました。
偉そうに書かせてもらいますが、妻の出産に付き添って息むたびに私も力が入り、苦しそうにしている妻に何もできずに、ただただ力が入り翌日筋肉痛になっていました。笑
今回は産後の運動開始時期や内容について書きますが、
ママさんだけでなく、パパさんにもサポートの面や男性はあまり体の変化について理解しにくいことが多いのでパパさんやパートナーにも読んでもらえたら嬉しいです。
今回は論文に基づいたものですが、個人差があるので細かい内容はご連絡いただけたら幸いです。
まず、産後のエクササイズの利点から、
・腰痛防止
妊娠に関わる腰痛は50−80%の妊婦さんがあると言われています。(Katonis 2011)
産後も出産のためのホルモンの関係で靭帯が緩み、なおかつ赤ちゃんを抱える、ベビーカーを押す、授乳等から腰への負担がかかることが多いので、腰痛防止のためのエクササイズ、赤ちゃんの抱き方等は注意が必要です。
・産後の尿もれ防止
Bussara Sangsawang(2012)の研究では54.3%の妊婦さんが尿漏れ(Stress urinary incontinence)を経験しているという報告がありとても一般的な症状です。
オーストラリアでは産後1日目、もしくは2日目にフィジオが来て骨盤底筋というコアの筋肉のトレーニング指導に来ます。

なかなかその時に全部を理解するのが難しく(奥の筋肉で見えないので)継続して行うことが重要とされています。
写真の白い丸が骨盤底筋と言って尿道の運動をコントロールしています。
・産後うつの改善
5人に1人(約20%)の方が産後うつを発症すると言われています。日本だと鬱はあまり人に話しにくいかもしれませんが、誰にでも起こりうるということを覚えておいてほしいです。
メカニズムとしては出産後,エストロゲンとプロゲステロン(女性ホルモン)、そして、それを受容するGABA受容体も出産後に通常レベルに戻りますが、一部の産婦ではこの回復に時間がかかり,それが産後うつを引き起こすと言われています。
それが軽度な有酸素運動で幸せホルモンと言われるセロトニンや女性ホルモンの補助になり、軽減できるとも言われています。
産後うつも適切な治療で(服薬と運動で70−80%が即座に回復)、よくなあるので早期発見が重要です。
運動に話を戻すと、
キーポイントは
「やりすぎはだめ」「やらなすぎもだめ」
中途半端で分かりにくいですが、軽い運動からというのがいいようです。
コアのエクササイズで
骨盤底筋+腹横筋
この二つの深部の筋肉がとっても重要です。

コアエクササイズ
産後1−2日目から開始(早いと思われるかもしれませんが産後すぐから始めます)
やり方:
内側の筋肉なのでイメージが重要です。
エクササイズとして
ステップ1:
座位、四つ這い、立位のどれでもやりやすい位置に。

ステップ2
おしっこを止めるように意識して軽くお下腹部に力を入れて引き締めます。(息を止めずに)
(この感覚が難しいと言われているのでフィジオに来てもらえると血圧計のようなものを腰の下に入れて計測することができます。
ステップ3
・ステップ2を5秒から10秒止められるようになったら(おしっこと止めるようにしながら)、
・尿道周囲をエレベーターの床ようにイメージして、そこから2階に上がるよう下腹部に力を入れて引き上げます。
・5秒保持してリラックスしてこれを繰り返します。
運動やジムやランニングへの復帰
・プールへの復帰
通常分娩であれば、プールの中で歩くのは基本的に出血が止まれば2−3週で、傷の回復後は可能ですが、コミュニティープールではたくさんの人が使用するという点から6−8週後からすすめています。
・軽いジム
軽いジムでの運動、負荷が軽めの運動や自転車などは8週程度からドクターの傷のチェックがよければスタートします。
ただ、授乳中の方も多く、出産前からホルモン(エストロゲンやリラキシン)の関係で骨盤の周りを緩める働き(赤ちゃんが出られるように)があるので、インパクトの強い運動(ジャンプやランニングの重い負荷のスクワット等)筋トレは上記のコアエクササイズがしっかりできていることを前提に少しづつ増やしていき、12-16週程度から始めることが多いです。
いくつかチェック項目(これができたらここまでやってもいいですよ)と言うものがあるので、ご相談頂けたらと思います。
あとは帝王切開の場合はこれに約4-6週間プラスして傷の治癒次第で行っていくことが多いです。
他にも妊娠中にお腹が大きくなっていくことで腹筋が離れてしまう事もあります。腹直筋離開(Abdominal separation (diastasis recti))
これも30−60%の妊婦さん、特に最初の8−12週くらいから起こることが多いとされています。(Jessen 2019)

これもフィジオや医師がチェックして軽度の場合(開きが2−3cm程度)であれば軽い腹筋エクササイズを12−16週間で軽減していくことが多いです。
(Sheppard 2018)
重りのウエイトエクササイズ、ランニング
論文的には通常3ヶ月以降に行っていきます。ただ、日本人、アジア人を対象にしたものは少なく欧米人ではということになってきます。
オーストラリアでは女性の中に私(173cm 66kg)が入っても小さい中に入るような気がします。(笑)
もともとエクササイズの習慣がある人とない人では変わってきます。
ただし、注意点があり、授乳中はホルモンの関係で関節も緩くなるので急なインパクトや重りを持ったものは腰痛悪化の原因にもなるので、フォーム、回数、重りのチェックはフィジオと相談してもらえたらと思います。
サッカー選手でも今回、ブリスベンのサッカーチームブリスベンロアーの女子チームに所属する29歳の選手(日本でもベガルタ仙台でプレー、2014年のアジア最優秀女子選手)が昨年のシーズン中に妊娠が分かり、今年8月に出産、現在チームトレーニングに復帰し今シーズンはママとしてプロシーズンを迎えます。
身長153cmと小さいのにかなり技術が高く、175cmを超えるオーストラリア女子DFに負けない技術、体の使い方が参考になることが多く好きなプレースタイルです。
他にもテニスの元女王セレーナ・ウジリアムズ選手、柔道のやわらちゃんこと谷選手。
もちろんこういった特殊な選手はたくさんの方がサポートしているのはもちろんですが、今までは
出産=引退
でしたのでこのような選手たちが世界で増えていること嬉しいことで注目しています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

