高齢者の転倒予防は命を守り、医療費を救う:理学療法と社会的価値の最新知見
サッカーのことばかりでお前「仕事」何してるんだととよく言われていますのでたまには真面目な話を。
オーストラリアの理学療法協会の個人ページには毎月のように最新の研究発表がアップロードされます。

(私の今月のログインした画面、いくつか新しい情報が出ています)
頭の良い協会の方が、良い論文から(この良い論文というのが大事で論文でも研究デザインがしっかりしているか、バイアスが極力少ないなど出してくれています。)どのようなことがいいのかというのを考えていけます。
これはすごい有名な人の意見でマスコミ等のメディアで挙げられるもの(がいい時もありますが)とは違い、数千、時には数万件のデータから統計を出して効果判定をしている論文を出してくれるというのが大きな点です。
はじめに
高齢者の転倒は、単なるケガにとどまらず、寝たきり・認知症の進行・死亡にまでつながる重大なリスク因子です。
また、転倒は医療費と介護費の急増につながり、社会全体にとって大きなコスト負担にもなっています。ここでは、最新のガイドラインとエビデンスをもとに、理学療法がどれだけ転倒を防ぎ、命とお金を守るかが出ています。
転倒の実態とMMSEスコア(認知症スコア)の関係
- 日本やオーストラリアの高齢者(65歳以上)の3人に1人が毎年1回以上転倒
- 転倒による骨折後1年以内の死亡率は33%(約3人に1人が転倒骨折後1年以内に亡くなるってすごく高いと思いませんか??)
- 認知機能との関連も強く、MMSEスコアが24点未満の高齢者では転倒リスクが2.5倍に増加
- ミニメンタルステート検査といい「Mini-Mental State Examination(1975年にアメリカでスタートし、日本語の2007年に翻訳されこのスコアの再現性も2010年には認められています)

認知機能低下により注意力・反応速度が落ちることで、転倒リスクが急上昇します。
転倒と経済損失
オーストラリアの例(Australian Physio Associationの報告, 2025)
- 転倒に関連する直接医療費:年間50億オーストラリアドル(約4900億円)
- 1件の大腿骨骨折あたりの治療費:平均27,000ドル(約260万円)
- 入院とリハビリ費用、介護施設入所の間接コストを含めると、1件の転倒で最大60,000ドル(約580万円)の社会的損失
転倒予防がもたらす経済的メリット
シミュレーション(APAデータ)
- 週2回の転倒予防運動プログラムを全国の高齢者施設に導入した場合:
プログラムによって転倒リスクを約30〜40%減少できるそうです。
オーストラリアの人口は約2700万人、そのうち65歳以上の高齢者は500万人(約18%)。そのうちの、
10万人にプログラムをできた場合約22,000件転倒が減少:2億ドル(約195億円)以上削減
50万人約110,000件減少10億ドル(約980億円)超削減
この医療費削減にフィジオの人件費を計算してどのくらいお得かを考えます。
- 対象者: 10万人の高齢者
- プログラム頻度: 週2回
- 1クラス: 10人/クラス、1人のフィジオが1クラス担当
- 1回のセッション: 1時間+準備・移動で1.5時間換算
- フィジオの時給: 約50豪ドル(平均)
プログラム導入コスト(人件費)
10万人を対象にする場合:
- 必要クラス数:10万人 ÷ 10人=10,000クラス
- 週2回なので、20,000セッション/週
- 1セッション1.5時間 → 週30,000時間
- 1時間あたり50ドル → 週150万ドル → 年間約 7,200万ドル
医療費削減額(APAシミュレーション)
- 10万人 → 2億ドル削減
費用対効果(利益)
- 10万人規模
削減額2億ドル − 人件費0.72億ドル=約1.28億ドルの純メリット
→ 投資利益率(ROI)=約 2.8倍
これを他の投資に考えてみましょう。日本でもNISA等はやってますし、お金の計算って本当に大事ですよね。
大学の授業でもお金の話は学生さん大好きで寝ている人が少ないんです。笑
ROIとは?
- ROI(Return on Investment)=投資額に対する利益の割合。
- ROI 2.8倍 → 投資1ドルで2.8ドルのリターン(元本+利益)。
つまり+180%の利益(利益÷投資=1.8)。
株式や金融商品と比較
- 株式市場の長期平均利回り(S&P500など):年率5〜10%(長期で良くて10%程度)
- 高配当株や不動産投資:年率3〜8%程度
- 国債や定期預金:ほぼ0〜1%(日本)、豪州国債でも3〜4%程度
私も大学4年生のゼミの先生から数を少し教えてもらい大学生のなけなしの20万円で株をしましたが、いいときで2倍、その後大暴落で半分ということも経験しました。
ポイント
- 転倒予防プログラムは、人件費を差し引いても国全体で圧倒的な経済メリット。
- しかもこれは直接医療費のみの削減効果。介護施設入所遅延・家族負担軽減・QOL向上を加えれば、さらに価値は上がると思います。
→ 転倒予防の取り組みは、命を守るだけでなく、国の医療財政の健全化にも貢献するのでフィジオの役割も大きいので国も少しお金を出してくれるのだと思います。
こうやって自分達のできることがどのくらい効果があるのか、特にお金に計算できると政治家や一般の方にも説得力がありますよね。
どの運動が効果的?理学療法の介入例
・バランス訓練片脚立ち、障害物歩行等を週3回
約24〜30%減
・下肢筋トレスクワット、段差昇降等を週2回
約20〜25%減
・認知×運動(Dual-task)計算しながら歩く等週1回
約10〜15%減

Sherrington et al., Cochrane Review (2019) によると、多面的な運動介入(筋力+バランス)は
最大34%転倒を予防可能
認知症があってもできる運動とは?
- 座位での足踏み体操
- 音楽や歌を使ったリズム運動
- 簡単なボール運動
- テレリハビリ(オンライン指導)
認知機能低下があっても、理学療法士による適切な関与で運動効果は期待できると報告されています。
まとめ
- 転倒は高齢者の命を奪い、国の医療財政を圧迫する「見えない社会的課題」
- 理学療法と運動介入は、最大で50%以上の転倒を予防可能
- 命・健康・経済の3つを守る「転倒予防政策」が今求められています
参考文献
- 発行:Australian Commission on Safety and Quality in Health Care
- PDFリンク:公式ガイドラインを読む(英語)
- APA:Falls Prevention Guidelines 2025
- Sherrington, C., et al. (2019). Exercise for preventing falls in older people living in the community, Cochrane Review
- World Health Organization (2024). Falls: Fact Sheet
- Australian Falls Prevention Network (2023)
お金をしっかり考えて説得するのがオーストラリアっぽいですね。
最近オーストラリアの宝くじで何億も当てた人がニュースになっていて、買う人も増えたと、
自分も一攫千金と思って先月買ってみましたが、、
計算すると、
オーストラリア で有名な宝くじPowerball の期待値
- 一般的に 定価に対する平均リターンは50〜60%程度。たとえば:
- チケット価格30ドル × リターン率60% → 期待値18ドル
→ ROI=0.6倍(つまり-40%の損失)
- チケット価格30ドル × リターン率60% → 期待値18ドル
夢を買うんだから別物と思いたいですが、、
ROI2.8倍(+280倍)のフィジオとROI0.6倍(−40%)では、、、、
宝くじは買いたいけど、フィジオの勉強をもっと頑張ろうと思った今日この頃です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
